保護者の方から、よくこんな相談をいただきます。
「うちの子、練習ではそこそこできるのに、試合になると動きが遅いんです」
「相手にすぐ取られてしまう。反応が遅い気がする」
「なんとなく、他の子と比べて『いつも1テンポ遅れてる』ような…」
これは、少年サッカーの現場で本当によく聞く声です。
そして──20年指導してきた私の実感で言うと、こういう「動きの遅さ」の正体は、体の速さや技術の問題ではなく、「観えていない」ことが原因のケースが、圧倒的に多いのです。
サッカーは「観る」から始まるスポーツ
コラム#01でも書きましたが、サッカーで大事な力は「観る・考える・決める・実行する」の4つです。この順番には意味があります。
すべての動きは、まず「観る」から始まるのです。
相手はどこにいるか。味方はどこにいるか。スペースはどこか。ボールはどこにあるか。──これが見えていないと、その後の判断も、実行もできません。動きは遅くなり、選択は間違い、ボールは取られます。
逆に言えば、「観る力」がしっかり育っている子は、体が速くなくても、技術がずば抜けていなくても、試合の中で「間に合う」子になります。相手の来る場所が予測できる。次にどこにパスが来るかが分かる。動き出しが早くなる。
「動きの速い子」より「観えている子」の方が、実は試合で活躍するのです。
「観る力」は、実は家庭で育つ
ここが、多くの保護者に伝えたいことです。
「観る力」は、サッカーの練習だけでは育ちません。というより、日常生活の中で育つ土台のうえに、サッカーの「観る」が乗ってくる感覚です。
つまり、家庭でお子さんと過ごす時間の使い方で、「観る力」の土台は大きく変わります。
今日は、私が20年間で見てきた「観る力が育っている子」の家庭に共通する、5つの習慣を紹介します。
習慣1:一緒にサッカーを「観る」時間をつくる
一番シンプルで、一番効果が大きいのがこれです。
プロサッカーの試合(Jリーグ、なでしこ、海外リーグ、女子リーグ、なんでもOK)を、親子で一緒に観る。ただ流しっぱなしにするのではなく、「観る」ことを共有する時間にします。
おすすめの声かけ
- 「今、あの選手、なんであの位置に走ったんだと思う?」
- 「このパス、どこに出すのが正解だと思う?」
- 「相手のディフェンダー、次はどう動きそう?」
正解を教える必要はありません。「一緒に予測する」「一緒に考える」時間を持つことが目的です。
子どもは「観るってこういうことか」を、体感で学んでいきます。
習慣2:練習・試合の帰り道の「対話」
練習や試合の後、車や自転車の中で、こう聞いてみてください。
「今日、何が見えた?」
「試合中、どんなことに気づいた?」
「うまくいったのは、どんな場面だった?」
ポイントは、「勝った?負けた?」「点取った?」から入らないことです。結果ではなく、「観えていたか」「気づけていたか」を聞く。
最初のうち、お子さんは「うーん、覚えてない」「別に」と答えるかもしれません。それでOKです。問われることで、次の試合で「観よう」とする意識が生まれるのです。
2〜3ヶ月続けると、少しずつ、答えが具体的になってきます。「あの場面で、右のスペースが空いてた」「相手の10番の子、うまかった」──こういう発見が、口から出るようになったら、しめたものです。
習慣3:スポーツ以外の場面で「観察」を促す
「観る力」は、サッカーの枠を超えて育ちます。
日常の中で、こんな声かけを取り入れてみてください。
散歩中・買い物中
- 「あの車、どうしてゆっくり走ってると思う?」(→歩行者を観ている)
- 「あの人、次にどっちに歩くと思う?」(→予測を促す)
- 「駐車場、どこが空いてる?」(→スペースの認識)
家の中
- 「今日、お母さんの服、何色だった?」(→観察力)
- 「テーブルの上、朝と何が違う?」(→変化への気づき)
くだらないように思えるかもしれませんが、これらは「周りを観る癖」「予測する癖」を作る訓練です。この癖がついている子は、サッカーの試合中も自然と観るようになります。
習慣4:見たものを「言葉にさせる」
これは少し高度ですが、非常に効果があります。
お子さんが何かを見た時、「何が見えた?」と、言葉で説明させる時間を作ってみてください。
プロの試合を観ている時。近所の公園で友達がサッカーをしている時。テレビでスポーツニュースが流れている時。──何でも構いません。
「今のシーン、何が起きた?」
「あの選手、何をしようとしてた?」
「もし自分だったら、どうしてた?」
言葉にできることは、認識できていることです。逆に、言葉にできないうちは、まだ「なんとなく見えている」だけで、認識できていないのです。
言葉にする訓練は、「観る力」を「使える力」に変えます。
習慣5:親が「答え」を先に出さない
ここは、一番大切かもしれません。
親御さんは、つい、答えを教えてしまいます。「今のは、ここにパスを出せば良かったんだよ」「もっと周りを見ないとダメだよ」──悪気なく、教育のつもりで、そう言ってしまう。
けれど、これでは子どもが自分で観る機会を、大人が奪ってしまっているのです。
子どもは、親が答えを出してくれると分かると、「自分で観なくても、あとで教えてもらえる」と学びます。観る力は、育ちません。
子どもが自分で見て、自分で気づいて、自分で言葉にする。その過程に、大人はできるだけ介入しない。これが、家庭での関わり方の基本です。
やってはいけない習慣
逆に、これはやめた方がいい、というものも挙げておきます。
NG1:「そこ、ちゃんと見てなかったでしょ」と責める
試合で何かミスをした時、「なんで見てなかったの」「もっと見ないと」と責める言葉。
これは、子どもに「観ることは、責められるための行為」だと学ばせてしまいます。観る意欲が下がります。
NG2:親が細かく解説してしまう
試合を観ながら、親がずっと解説を続けるパターン。
「あそこにスペースがあるでしょ」「ほら、あの選手あんなに動いてる」──親の言葉が多すぎると、子どもは自分で観ることを止めます。「親の解説を聞いていれば分かる」からです。
NG3:他の子との比較で観察力を評価する
「〇〇君はもっと周り見てるよ」「あの子、ちゃんと観てるじゃない」──比較の言葉は、観る意欲そのものを削ります。観る力は、自分のペースで育つものです。
「観る力」は、5年後の差になる
私が20年見てきて、はっきり言えることがあります。
小学生年代で「観る力」が育った子は、中学以降、明確に伸びます。技術は後から追いつけます。体格も後から変わります。でも、「観る癖」「予測する癖」は、小学生の間に土台を作らないと、なかなか身につかないのです。
逆に、小学生の間、指示されて動くばかりで「観る力」を使ってこなかった子は、中学で環境が変わると、急に伸び悩みます。指示者がいなくなった瞬間、何を見ればいいのか、何を判断すればいいのか、分からなくなるからです。
これは、コラム#05や#06でも書いた、育成重視のクラブが大事にしている「自立して判断する力」と、まったく同じ話です。
最後に
「観る力」を家庭で育てることは、特別なことではありません。
一緒にサッカーを観る。帰り道に対話する。日常で観察を促す。言葉にさせる。答えを出しすぎない。──今日から、できることです。
お子さんが「動きの速い子」より、「観えている子」になれるように。
そして、その「観る力」が、10年後、20年後、お子さんの人生の土台になるように。
私たちエルソールは、練習と試合の中で「観る力」を育てる指導をしています。ただ、家庭での時間の方が、圧倒的に長い。クラブと家庭、両方で「観る力」を育てるのが、一番の近道です。
この記事が、その一歩のきっかけになれば嬉しいです。